1,000円クーポンを配るのに必要な経費は280円程度という謎(2022-02-25)

昨日のニュースを見て考えたことの共有です。

伊藤忠、中古スマホ回収 ファミマ25店で実証: 日本経済新聞 (nikkei.com)

携帯電話のマーケットの大きさなどから日本の都市鉱山の蓄積量はかなりの規模といわれています。都市鉱山の発掘のためには小型電子機器の代表格である携帯電話回収スキームを確率することは優先順位の高いアジェンダです。ただ問題はその回収スキームをどう確立するか。

伊藤忠商事はリサイクルの仕組みを回すためにファミマで一台1,000円のクーポンを発行するそうです。利用者にとってはかなりインセンティブですよね。良くも悪くも「地球を守ろう」という大義名分だけでは人々の気持ちは動かないのと考えるのが自然な発想だと考えます。

ただ、即座に妙なひっかかりを感じたのは、「一台のケータイを集めるのに1,000円クーポンは回収コストとして高すぎないか?」という疑問でした。材料費の比率が仮に販売価格の40%だとすると単純に2,500円分の販売価格分に相当します。回収したケータイを輸送したりレアメタルを回収する加工費などを考えるとそれはもっと高価になるはず。とても「都市鉱山からの発掘の段階」で1,000円も負担していられないと思うのです。 

こちらにリンクを張った二つのサイトの情報からラフな計算をすると、携帯電話一台に含まれる金約0.03gは200円程度の価格になるのです。(6,666円 ✕ 0.03g ≒ 200円)

自宅に眠る『埋蔵携帯』 その驚きの価値は・・ | かんさい深掘り | 関西ブログ (nhk.or.jp)

本日の地金相場【金の相場】 | 貴金属地金 | YAMAKIN株式会社 (yamakin-gold.co.jp)

このキャンペーンを発案した担当者は社内でどういう説得を仕掛ければ、「1,000円クーポンやってみよう!」と経営者が納得するのかを考えざるを得ません。

そうすると次の数式が頭に浮かびました。
1,000円 ✕ 70%✕ 40% ≒ 280円
この70%と40%の二つの係数パワーを使うことで280円程度のコスト負担によって1,000円のクーポンが発行できると思うのです。勘の良い人はすぐに思いつくと思うのですが、その正体は次のようなものでした。

① 粗利ギミックの70%

ファミリーマートで1,000円クーポンをもらったので、250円のサンドイッチ、600円のお弁当、150円のドリンクを買いました。合計1,000円なのでクーポンで払いました。当然、「1,000円得したよ~」となりますね。このときファミマはいくら負担しなければならないでしょうか。正解は1,000円ではありません。もちろん売上値引の感覚では1,000円のマイナスが入りますが、この対応の原資は多くても700円程度でしょう。なぜならば残りの300円は彼らの粗利だからです。つまり、250円のサンドイッチは175円で仕入れており、お弁当やドリンクはそれぞれ、420円、105円程度になっているはずです。よって、お客が1,000円のお得感を得るのに必要なコストは700円になるのです。

厳密に言うと、お弁当をレンジで温めたり、ドリンクを冷やしておく冷蔵庫の電気代や、レジの対応をするバイトの給与などが含まれていないのでこの計算はある意味で乱暴です。ただ、ここで言いたいのはクーポンの額面によってお客が受けるお得感とそれを実現するために必要なコストの持ち出しには差があるということです。

② クーポン使用率ギミックの40%

次に40%についてです。この1,000円クーポンを仮に100人に配ったとします。(そんなに少ない訳はないのですが。)そのとき、何人ぐらいこのクーポンを利用してタダで商品をゲットできるでしょう。この割合はお店の業態や、クーポンが使える条件によって変わってきます。今回はコンビニの話ですので来店頻度は高いケースです。

ただし、クーポンが利用できるのは発行の翌日から一ヶ月に限るとか、利用可能な店舗は発行可能な店舗に限るといった条件を設定すれば、実質的にクーポンの利用が制限されてしまう可能性はあり得るのです。あるいは、お酒やタバコについてはクーポンが使えない、あるいは、クーポン利用のためにファミリーマートアプリのインストールや会員登録が必須であったり、ファミペイでのみクーポン値引きが適用されたりすれば、利用条件はかなりコントロール可能になるのです。こう考えると100人に配られたクーポンが実際に使用されるのは、40%程度だと想定できる可能性もでてきます。

あらかじめことわっておきたいのは、①の粗利を差し引いた分が70%なのか60%なのか、あるいは②の使用率の40%を高いとするか低いとするかを議論したいわけではないのです。議論したところで正解は「中の人」しかわからないですし、「中の人」は正解を教えてくれるはずはありません。

重要なのは、「1,000円のお得感」を実現するために妥当なコストは一体どのくらいなのか。あるいはどのように条件設定すれば、長期間負担可能なレベルに落ち着くのか。さらにいうなら、そのキャンペーンが「都市鉱山からの資源発掘」という大命題を達成するためには、どの程度のお得感を打ち出せば人々の食指が動くのかを勘案することが重要なのです。

仕掛け人も仕掛けられる側も納得感と継続性を維持できることがなによりなのですから。

それではまたいずれ。

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